給与の決め方|「なんとなく」から抜け出す4つの手順

賃金・賞与

給与の決め方|「なんとなく」から抜け出す4つの手順

「なぜあの人の給与がこの金額なのか、聞かれても答えられない」——中小企業の経営者からよく聞く悩みです。入社時の交渉の結果、前職の給与を踏まえた配慮、その場の勢いで決めた額……振り返ると、給与の決定理由がひとつひとつ違っていて、説明できる基準がどこにも残っていない、という状態です。本記事では、経営者の感覚だけで給与を決めている状態から、説明できる仕組みへ移行するための手順を整理します。制度全体の位置づけは人事評価制度とは|中小企業のための完全ガイドを参照してください。

「なんとなく」で給与を決めている状態とは

「なんとなく」の給与決定とは、金額を決める理由が、そのときどきの事情に依存していて、他の社員にも当てはめられる基準になっていない状態を指します。採用時に「この人は他社から声がかかっていたから、少し高めに」、既存社員には「長く働いてくれているから、少し上乗せ」といった判断が積み重なると、社員ごとに給与の決め方が違う会社ができあがります。

社員数が10人前後までであれば、社長が一人ひとりの事情を把握しているため、この状態でも大きな問題にはなりにくいものです。しかし社員が20〜30人を超えたあたりから、社員同士で給与差の話題が出やすくなり、「なぜあの人の方が高いのか」という疑問に、経営者が答えられない場面が増えていきます。答えられない状態が続くと、給与への不満は業務への不満よりも先に離職の引き金になりやすいという実務上の傾向があります。

手順①:給与の構成要素を仕分ける

最初に取り組むべきは、現在支払っている給与を、要素ごとに仕分けることです。基本給・役職手当・資格手当・通勤手当・その他の諸手当が、何の理由で、いくら支払われているのかを一覧化します。

構成要素決める理由見直しの頻度の目安
基本給等級・役割に応じた土台の給与昇給・昇格のタイミング
役職手当管理職としての責任・権限への対価役職の任免時
資格手当業務に必要な資格の保有への対価資格取得・失効時
諸手当通勤・住宅など個別事情への配慮実費や制度変更時

この仕分けをせずに「月給30万円」という総額だけで管理していると、後から等級や役割との対応関係を作ることができません。まず総額を要素に分解することが、「なんとなく」から抜け出す最初の一歩です。

手順②:等級・役割を言語化する

給与の構成要素を仕分けたら、次に基本給の部分を等級・役割と結び付けます。等級ごとに「どのような役割・成果を期待するか」を言葉にしておけば、「この等級だからこの給与」という説明が初めて可能になります。

等級を先に固めていない場合は、等級制度の作り方|中小企業向け完全ガイドを参考に、まず3〜5段階程度の等級と役割定義を整えることをおすすめします。等級・評価・給与の3点がどのように連動するかについては、等級・評価・給与、それぞれ何のためにあるかで全体像を解説しています。役割定義があいまいなまま金額だけを決めると、後から「なぜこの金額なのか」を説明できない状態に戻ってしまいます。

手順③:地域・業種の相場と照合する

自社の等級ごとの給与案ができたら、地域・業種の相場と照合します。この工程を飛ばすと、社内の相対的なバランスだけで決めた金額が、実は相場から大きく外れているケースに気づけません。

相場の確認には、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を使うのが基本です。求人サイトに掲載される給与は、あくまで募集要項に書かれた希望額であり、実際に支払われた給与の統計ではない点に注意が必要です。役職別・地域別・業種別の相場の調べ方は中小企業の賃金相場を公的データで調べる方法、課長・部長級の年収ベースの目安は中小企業の課長・部長の年収相場で詳しく解説しています。自社の等級と役職・職種の対応が近い場合は、下限額が相場の8割を下回っていないか、上限額が相場から大きく離れていないかを点検の目安にしてください。

なお、歯科衛生士・介護職・トラック運転者のように、職種そのもので給与水準がほぼ決まる仕事の場合は、役職別の相場ではなく職種別の実額と照合する必要があります。役職の階層で相場を見る方法は事務職・管理職には向きますが、専門職には当てはまらない点に注意してください。

手順④:昇給・見直しのルールを事前に決める

給与の初期設定ができても、その後の昇給・見直しの基準が「なんとなく」のままでは、また同じ問題に戻ります。毎年の昇給を、物価上昇などに応じて全社員一律に反映する「定期昇給」と、人事評価の結果に応じて個別に反映する「査定昇給」に分けて、評価ランクごとの昇給額をあらかじめテーブル化しておくと、判断のブレが抑えられます。

等級ごとに給与の幅(賃金レンジ)を持たせ、その中で昇給を積み重ねていく設計にすると、昇格を急がせすぎずに運用できます。設計の考え方は賃金レンジの作り方|「重なり型」で納得感を生む設計で具体的に解説しています。ルールを事前に文書化しておくことが、翌年以降に「今年はどうするか」を毎回議論し直す事態を避ける最大のポイントです。

よくある失敗

給与の決め方を見直す際に、つまずきやすいポイントを3つ挙げます。

失敗①:相場照合を後回しにする。 社内のバランスだけで金額を決め、相場との照合を「いつかやろう」と先送りにすると、いつまでも「なんとなく」の域を出られません。

失敗②:等級と給与を結び付けずに終わる。 給与の構成要素を仕分けただけで、等級・役割との対応関係まで作らないと、社員から見た説明力は変わりません。

失敗③:例外対応をルール化せずに個別交渉で処理し続ける。 中途採用時の提示額など、例外的な判断が必要な場面は必ず出てきます。そのたびに個別交渉で処理すると、数年後には再び「なんとなく」の状態に戻ってしまいます。例外を扱う際の判断基準も、あらかじめ決めておくことが欠かせません。

失敗④:決めた基準を就業規則・賃金規程に反映しないまま運用する。 給与の決め方を社内資料やメモの形で整理しただけで終えると、担当者が変わったときに基準が引き継がれず、数年でまた「なんとなく」に戻ってしまいます。基準がある程度固まったら、賃金規程として文書化しておくことが、仕組みを長く維持するための土台になります。

まとめ

給与の決め方を「なんとなく」から卒業するには、構成要素の仕分け、等級・役割の言語化、地域・業種相場との照合、昇給・見直しルールの事前設定という4つの手順を、順番に積み上げていくことが近道です。一度にすべてを整える必要はなく、まず現在の給与を要素ごとに仕分けるところから始めれば、次に取るべき手順が自然と見えてきます。

等級制度の設計から始めたい方は等級制度の作り方|中小企業向け完全ガイド、賃金レンジの具体的な組み立て方は賃金レンジの作り方|「重なり型」で納得感を生む設計を、あわせてご覧ください。