役職手当の相場|部長8.9万円・課長5.7万円(中小企業)

賃金・賞与

役職手当の相場|部長8.9万円・課長5.7万円(中小企業)

課長に昇進したら手当は3万円か、5万円か、10万円か——多くの中小企業で、この金額は経営者が他社の話を聞きかじった感覚で決めています。等級制度や評価制度を整えても、役職手当の水準に根拠がなければ、社員から見た給与の納得感は半分しか作れません。

役職手当という「もう一つの給与差」

役職手当は、役職に就くことで発生する責任・負荷に対して支払う手当です。基本給とは別建てで支給する会社が多く、係長・課長・部長といった階層ごとに金額を変えるのが一般的な設計です。ただし「うちの課長手当は5万円だが、これは世間と比べて高いのか低いのか」という問いに答えられる経営者は多くありません。

本記事では、公的統計をもとに役職手当の相場を確認したうえで、金額の決め方の考え方を整理します。人事評価制度全体の設計は人事評価制度とは|中小企業のための完全ガイドで解説していますので、あわせてご覧ください。

公的統計で見る役職手当の相場

役職手当そのものの支給額を継続調査している資料として使えるのが、東京都産業労働局が毎年実施する「中小企業の賃金・退職金事情」です。都内の常用労働者10〜299人の中小企業を対象にした調査で、令和6年版では役職手当を「同一役職なら同じ金額を支給する会社」と「同一役職でも考課や担当範囲によって金額に差をつける会社」に分けて集計しています。

役職同一支給型(平均)格差型(平均)
部長級88,678円105,815円
課長級56,507円68,541円
係長級30,594円38,219円

出典:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」令和6年版。都内・常用労働者10〜299人の中小企業が対象であり、全国平均ではなく都内中小企業に限定した数値である点に注意してください。業種構成や地価水準が異なる地方の会社に当てはめる場合は、この数値をやや割り引いて目安にする必要があります。

格差型のほうが平均額が高いのは、考課や個人の実績を反映できる分、上限を高めに設定する会社が多いためと考えられます。自社が一律支給と査定込み支給のどちらに近い設計を目指すかによって、参照する列を使い分けてください。

役職手当は総支給額のどれくらいを占めるか

役職手当の水準を考えるときは、単体の金額だけでなく、役職者の給与全体に占める割合で見ると、設計のバランスを判断しやすくなります。

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和6年によると、雇用期間の定めのない一般労働者の所定内給与月額(基本給と諸手当の合計)は、部長級62.7万円、課長級51.2万円、係長級38.6万円、非役職30.3万円です。常用労働者10人以上の事業所が対象で、賞与や残業代は含みません。役職別の相場全体の調べ方は中小企業の賃金相場を公的データで調べる方法で詳しく解説しています。

先ほどの役職手当額(同一支給型)を単純に当てはめると、部長級で総支給額の約14%、課長級で約11%、係長級で約8%が役職手当という計算になります。この割合が突出して高い、あるいは低い場合は、基本給側の等級間格差と役職手当の役割分担が崩れている可能性があります。役職が上がるほど手当の比重を厚くする設計と、基本給側の等級差で処遇する設計のどちらを軸にするかを先に決めておくと、金額のブレが少なくなります。

「同一支給型」と「格差型」——どちらを選ぶか

役職手当の設計には、大きく分けて2つの型があります。

特徴向いている組織
同一支給型同じ役職なら全員同額。シンプルで説明しやすい役職者の人数が少なく、役割の幅が小さい組織
格差型同じ役職でも、担当範囲や考課によって金額に差をつける同じ役職内でも担当範囲の幅が大きい組織

中小企業では役職者の人数がそれほど多くないため、まずは同一支給型から始め、組織が大きくなって同じ役職内でも役割の差が広がってきた段階で格差型への移行を検討する、という順序が運用しやすいところです。格差型にいきなり移行すると、「なぜあの人だけ手当が高いのか」という疑問が先に立ち、評価制度側の説明材料が整っていないと不満につながりやすくなります。

役職手当だけに頼ると起きる問題

役職手当の金額を厚めに設定すること自体は問題ではありませんが、等級制度や評価制度を整備せず、役職手当だけで処遇の差をつけようとすると、いくつかの問題が起きます。

第一に、役職に就かない社員の処遇が頭打ちになります。管理職にならない専門職やベテラン社員の給与を上げる手段が役職手当しかないと、昇進を望まない人材の待遇改善が難しくなります。

第二に、役職手当を上げ続けると、その手当を含めた総支給額が膨らみ、後から下げることが事実上できなくなります。役職を外れた際に手当だけ外す運用は、実際には社員の反発が強く、実行に踏み切れない会社が大半です。増額する前に、外す場合のルールまで決めておく必要があります。

第三に、管理監督者に該当するかどうかを、役職手当の金額だけで判断してしまうケースです。労働基準法41条2号の管理監督者に該当するかどうかは、役職名や手当の金額ではなく、権限・待遇・勤務態様の実態で判断されます。役職手当を増やしたからといって、残業代の支払い義務がなくなるわけではない点は、経営者が誤解しやすいところです。

等級制度・評価制度と役職手当をどう接続するか

役職手当の金額を相場に合わせるだけでは、社員の納得感は完成しません。役職手当は、あくまで等級制度・評価制度とセットで機能する仕組みの一部です。

まず、役職と等級の対応を明確にしておく必要があります。「係長は必ずM2等級」のように役職と等級を1対1で固定する会社もあれば、「M2等級でも係長を任せられる人と、まだ任せられない人がいる」という前提で、昇格と昇進(役職への任命)を切り離す会社もあります。後者を選ぶ場合は、役職手当を「役職に就いている間だけ支給する手当」として明確に位置づけ、等級そのものの基本給とは別枠で管理したほうが、異動や役職交代のたびに混乱が起きません。

次に、評価結果と役職手当の連動を検討します。格差型を採用する場合、何を根拠に金額差をつけるかを、評価項目や等級の役割定義と結びつけておく必要があります。根拠がないまま金額差をつけると、役職手当が経営者の裁量に見えてしまい、納得感を損ないます。等級ごとの賃金レンジの設計方法は賃金レンジの作り方|「重なり型」で納得感を生む設計で解説していますので、役職手当を含めた処遇全体の設計にあわせて活用してください。

まとめ

役職手当の相場は、東京都産業労働局の調査を目安にすると、部長級で8万円台後半〜10万円台、課長級で5万円台後半〜6万円台後半、係長級で3万円前後〜3万円台後半というのが一つの水準です。ただし、この数値は都内・常用労働者10〜299人の中小企業を対象にした調査であり、業種・地域・企業規模によって水準は変わります。

金額を決める際は、公的統計を出発点にしつつ、等級制度・評価制度と整合する形に落とし込むことが欠かせません。役職手当だけを厚くして処遇差をつけようとすると、等級制度全体の設計がゆがみます。等級・評価・賃金を一体で設計する考え方は、人事評価制度とは|中小企業のための完全ガイドで改めて整理していますので、あわせてご確認ください。