税理士事務所の人事評価制度|科目合格者と繁忙期の評価

業種別

税理士事務所の人事評価制度|科目合格者と繁忙期の評価

税理士事務所の人事評価制度づくりには、士業事務所に共通する論点と、税理士事務所ならではの論点があります。共通する論点――等級を実務力で組み、資格は手当で別処遇する考え方――は社労士・税理士事務所の人事評価制度で扱いました。この記事では、税理士事務所に特有の3つの論点、科目合格者のステータス管理、担当件数と業務品質のバランス、確定申告・年末調整の繁忙期評価に絞って掘り下げます。制度全体の枠組みから知りたい方は人事評価制度とは|中小企業のための完全ガイドも参考にしてください。

税理士事務所で人事評価が難しくなる3つの事情

税理士事務所の人事評価は、一般的な中小企業の評価制度をそのまま持ち込むと機能しにくい面があります。理由は大きく3つです。

まず、科目合格者が多く在籍することです。税理士試験は5科目合格制で、会計学に属する科目(簿記論・財務諸表論)の2科目と、税法に属する科目のうち選択する3科目、合計5科目に合格すると試験合格となります(税理士法第3条)。合格した科目は生涯有効なため、事務所には「あと1科目」の人もいれば「あと3科目」の人も混在し、実務力と試験の進み具合が必ずしも一致しません。

次に、繁忙期の業務量が跳ね上がることです。個人の確定申告が集中する2〜3月、年末調整・法定調書が集中する11〜12月は、通常期の何倍もの業務が短期間に押し寄せます。この時期の働きぶりだけで年間評価を決めると、繁忙期に何を担当したかという巡り合わせが評価を左右してしまいます。

最後に、所長への相談・判断の集中です。顧問先ごとに税務判断の最終責任は所長が負うため、規模が大きくなるほど所長の目が行き届かなくなり、評価の根拠が「所長の印象」に寄りがちになります。この3つを踏まえたうえで、等級・評価項目・繁忙期の扱いを設計する必要があります。

科目合格者のステータスは等級と切り離す

税理士試験は税理士法第3条に基づく国家試験で、5科目合格に加え、租税・会計に関する実務経験を通算2年以上積むことなどが税理士登録の要件になります。この「あと何科目か」という学習ステータスを、そのまま等級や評価点に反映させるのは避けたほうがよい設計です。

理由は単純です。試験の合否は本人の実務能力だけでなく、その年の出題や体調にも左右されます。学習ステータスを評価に混ぜると、実務が回せているのに科目が残っているというだけで低く評価される人が出て、逆に実務がまだ弱くても科目が早く進んだ人が高く評価されるというねじれが生じます。

実務目線では、次の2つを分けて設計するのが安定します。

分ける対象何で決めるか
等級(基本給の土台)実務でどこまで任せられるか(申告書を単独で仕上げられるか、後輩を指導できるか等)
科目合格・登録の進捗合格科目数・受験休暇の取得状況・奨励金の支給対象かどうか

等級は等級制度の作り方|中小企業向け完全ガイドで解説した「実務で任せられる範囲」の考え方をそのまま使い、科目合格の進捗は奨励金や学習時間の確保(繁忙期を避けた受験休暇の付与など)で後押しします。試験勉強に力を入れて実務が手薄になっていないかは、学習の進み具合ではなく、後述する担当件数・ミスの有無といった実務項目で確かめます。

担当件数と業務品質のバランスで評価する

税理士事務所の評価項目でつまずきやすいのが、担当件数(顧問先の数・月次巡回の件数・申告書の本数)と業務品質のどちらに重心を置くかです。件数だけを見ると、質を落として数をこなすインセンティブが働きます。逆に品質だけを見ると、粘り強く多くの顧問先を回している人が正当に報われません。

実務では、次のように件数と品質を並べて評価する事務所が多いです。

  • 件数の指標:担当顧問先数、月次巡回・記帳指導の件数、申告書の作成本数
  • 品質の指標:申告内容のミス・税務調査での指摘の有無、顧問先からの相談への回答スピード、期限(申告期限・提出期限)の遵守率
  • 育成・貢献の指標:後輩・パート職員への指導、業務のマニュアル化、事務所全体の業務改善提案

等級が上がるほど件数と後進育成の比重を上げ、半人前・一人前の等級では正確性と期限遵守を重く見る、という等級別の重み付けが実態に合います。評価項目の組み立て方の基本は人事評価の項目とは|評価項目の例も参考にしてください。

確定申告・年末調整の繁忙期をどう評価に反映するか

繁忙期の働きぶりを通期の評価にそのまま重ねると、担当した顧問先の数や難易度という巡り合わせが評価を左右してしまいます。繁忙期は次の2点に絞って評価するのが現実的です。

  1. 期限内に処理しきったか:件数の多さそのものより、担当分を期限内に破綻なく終えられたかを見る
  2. 進捗の共有ができていたか:抱え込まずに、遅れそうな案件を早めに報告・相談できていたか

繁忙期の残業時間の多さを「頑張り」として評価するのは避けたほうがよい設計です。長時間労働そのものを評価対象にすると、翌年以降も同じ働き方を再生産してしまいます。むしろ、業務の平準化提案(早期の資料回収の呼びかけ、繁忙期前のチェックリスト整備など)を加点対象にすると、事務所全体の負荷を下げる行動が評価される仕組みになります。年次有給休暇の消化状況も、繁忙期後にまとめて確認しておくとよい指標です。評価面談の進め方は評価面談で「話すこと/話さないこと」も参考にしてください。

賃金水準の考え方

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和6年の「公認会計士,税理士」区分によると、平均年収は約856万円(きまって支給する現金給与額から算出した月給約55.8万円、年間賞与その他特別給与額約187万円)です。ただしこれは公認会計士と税理士を合算した全規模平均で、常用労働者10人以上の事業所が調査対象という前提があります。

企業規模別に見ると、1,000人以上の組織では約1,043万円、100〜999人では約764万円、10〜99人では約660万円と、規模が小さいほど下がります。中小の税理士事務所は10〜99人規模に近く、全規模平均の856万円をそのまま目安にすると実態より高く出やすい点に注意してください。なお社会保険労務士には単独の職種区分がなく、この統計は税理士・公認会計士に限った参考値である点も踏まえておきます。

自事務所の賃金レンジを作るときは、この規模別の実額を出発点に、近隣の同業他社の求人水準と突き合わせて調整することをお勧めします。役職の階層に企業規模や地域の係数を掛けて世間水準を逆算する方法は、資格の有無で処遇差が大きいこの業種の実態とずれやすいため避け、まず職種別・規模別の実額を土台にするほうが安全です。相場の調べ方全体は中小企業の賃金相場を公的データで調べる方法、資格手当の設計は社労士・税理士事務所の人事評価制度で詳しく解説しています。

よくある失敗

  • 科目合格の進捗を評価点に混ぜる:試験の巡り合わせで評価が決まってしまい、実務力の高い無資格者や、科目が進んでいない実務のベテランの納得感を損なう
  • 繁忙期の残業時間の多さを頑張りとして評価する:長時間労働そのものを評価してしまい、翌年以降の働き方が改善されない
  • 大企業向けの評価シートをそのまま流用する:営業成績中心の項目が並び、相談対応・実務精度が中心の税理士事務所の実態と噛み合わない(中小企業がよくやる「大企業マネ」3つの失敗
  • 所長一人に評価判断が集中する:繁忙期の所長が評価にまで手が回らず、形だけの制度になる。評価者を複数名に分け、評価基準をすり合わせる場を設けておく

まとめ

税理士事務所の人事評価制度は、①科目合格の進捗を等級・評価点と切り離して奨励金で応援する、②担当件数と業務品質を等級別の重みで並べて評価する、③繁忙期は期限遵守と進捗共有に絞って見る、という3点が背骨です。等級設計や資格手当の考え方は士業事務所に共通する土台として社労士・税理士事務所の人事評価制度を、賃金レンジの実額は本記事の統計を出発点にしてください。

評価シートの型から具体的に検討したい方は、人事評価シートのテンプレート・サンプル集も参考にしてください。