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社労士・税理士事務所の人事評価制度|等級は実務力・資格は手当で分ける
士業事務所(社会保険労務士事務所・税理士事務所)の人事評価制度は、突きつめると2つを決める作業です。ひとつは、どんな等級をつくるか。もうひとつは、各等級で何を評価するか。この記事は、その2つを具体的に組み立てていきます。
先に結論から言うと、等級は「習熟度・役割」で組み、資格は等級ではなく資格手当で見ます。この切り分けが、士業事務所でありがちな「資格はあるが実務が弱い人」「無資格だが実務を回すベテラン」の処遇のねじれを解く鍵になります。制度全体の枠組みから知りたい方は人事評価制度とは|中小企業のための完全ガイドも参考にしてください。
等級をつくる
最初に等級を設計します。ここで大事なのは、等級の軸に資格を入れないことです。資格の有無ではなく、「どこまで実務を任せられるか」という習熟度・役割で分けます。士業事務所なら、次の一本の梯子が分かりやすく機能します。
| 等級 | 呼称 | 任せられる状態 |
|---|---|---|
| 4 | マネージャー(MRG) | チームや事務所全体の生産性を見る。所長代理として運営を担う |
| 3 | 指導役 | 後輩や受験生を指導し、事務所の実務品質を支える |
| 2 | 一人前 | 担当業務を単独で完結できる。自分の担当顧客を持てる |
| 1 | 半人前 | 指示を受けて定型業務をこなす。単独ではまだ回せない(教わる側) |
呼称は事務所になじむ言葉で構いません。要は「資格があるか」ではなく「何を任せられるか」で並べることです。
そのうえで、資格は等級に入れず資格手当で払います。士業事務所には、社会保険労務士法第27条・税理士法第52条により、登録した社会保険労務士・税理士でなければ報酬を得て業として行えない業務があります。資格(登録)は担当できる業務範囲を法的に広げるものであり、その価値は手当で処遇します。
- 社会保険労務士・税理士の登録資格 → 定額の資格手当
- 科目合格・受験ステータス → 段階的な奨励手当(任意)
こうすると、「資格はあるが実務が弱い人」は等級を実力どおりに据え置きつつ資格手当は支給でき、「無資格でも実務を回すベテラン」は等級で正当に上げられます。資格を取った努力には報い、実務の序列とは混同しない。この分離が処遇のねじれを解きます。等級設計そのものの基本は等級制度の作り方|中小企業向け完全ガイドで詳しく解説しています。
各等級で評価する項目
等級をつくったら、次はそれぞれの等級で何を評価するかを決めます。立場(有資格・無資格)ではなく、等級ごとに求めることを並べます。
半人前・一人前(実務の担い手)
- 書類作成・入力の正確さとスピード
- 給与計算、社会保険手続き、税務書類作成の補助など、担当業務に応じた実務スキルの習熟度
- ミスの少なさと、報告・相談のタイミング
- 顧客との一次対応、電話・メール対応の丁寧さ
指導役(品質を支える)
- 相談対応の的確さ、法令改正への対応スピード
- 担当顧客の継続率、紹介の発生
- 後輩・受験生への指導、業務のマニュアル化
マネージャー(事務所を動かす)
- チームの生産性向上への貢献
- 評価者としての基準の統一、育成計画の設計
- 事務所全体の業務改善・体制づくり
資格試験の受験生も、人事評価そのものは他のスタッフと同じく実務の成果・品質・役割で見ます。受験や科目合格は評価点に加えず、奨励手当や育成面談で後押しする形にします。ここを評価に混ぜると、資格が等級・基本給に間接的に効いてしまい、「資格は手当で見る」という軸がぶれるためです。学習に力が入って実務が手薄になっていないかは、学習状況ではなく、納期・ミスの有無・顧客対応といった実務項目で確かめます。
士業事務所で特に外せないのが、「ミスの少なさ」「顧客対応の丁寧さ」を明確な項目にすることです。書類の誤りや手続きの遅れが顧客の実害に直結するため、実務品質を項目に入れないと、試験勉強を優先するあまり日々の仕事が荒くなります。項目の作り方の基本は人事評価の項目とは|評価項目の例も参考になります。
運用でつまずかないための注意点
制度を作っても、運用でつまずくと形だけになります。士業事務所でよくある落とし穴を4つ挙げます。
- 所長への属人化:顧客が所長個人に紐づくと、スタッフの働きより所長との関係が処遇を左右しがちになる。顧客対応の記録を残し、所長以外の貢献も評価できるようにする。所長の感覚だけで評価すると、担当替えや引退時に評価基準ごと引き継げなくなる
- 繁忙期のゆがみ:算定基礎届・年度更新、確定申告・年末調整の時期は業務量が跳ね上がる。この時期のミスやスピードだけで通期評価を決めず、繁忙期と閑散期を分けて見る
- 評価者のばらつき:社会保険労務士・税理士が複数名いる事務所では基準がぶれやすい。評価項目・尺度を事務所として一本化し、所長間で評価会議を持つ
- 大企業向けシートの流用:営業成績中心の項目が並び、相談対応・実務精度が中心の士業の実態と噛み合わない(中小企業がよくやる「大企業マネ」3つの失敗)
評価面談の進め方は評価面談で「話すこと/話さないこと」も参考にしてください。
賃金への落とし込み
最後に、等級と評価を賃金につなげます。順序としては、まず等級ごとの基本給レンジを土台に置き、その上に資格手当を乗せる形です。無資格のベテランと有資格者の差も、「等級(実務力)で決まる基本給」と「資格保有への手当」に分けて説明できます。
相場を調べるときは、公的統計の使い方に一点注意が要ります。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和6年の「公認会計士,税理士」区分の平均年収は約856万円ですが、これは公認会計士と税理士を合算した全規模の平均です。大きな組織の高い水準も含むため、そのまま目安にすると実態より高く出やすい数字です。同じ調査を企業規模別に見ると、従業員1,000人以上で約1,043万円、100〜999人で約764万円、10〜99人では約660万円と、規模が小さいほど下がります。中小の士業事務所に近いのは10〜99人の層で、全規模平均より約200万円低い水準です。相場を引くなら、この規模の数字を出発点にするほうが実態に合います。なお社会保険労務士には単独の職種区分がなく、統計の裏づけを取りにくい点も踏まえておきます。相場の調べ方は中小企業の賃金相場を公的データで調べる方法で詳しく解説しています。
まとめ
士業事務所の人事評価制度は、①等級を習熟度・役割の一本軸(半人前・一人前・指導役・マネージャー)でつくり、②各等級で何を評価するかを決める、この2つが背骨です。資格は等級に混ぜず資格手当で処遇すれば、資格はあるが実務が弱い人も、無資格でも実務を回すベテランも、筋の通った説明で処遇できます。あとは所長一人への属人化を避け、繁忙期と閑散期を分けて運用する。これで資格の有無にかかわらず、スタッフの実務対応力が正しく処遇に反映される仕組みになります。
評価シートの型から具体的に検討したい方は、人事評価シートのテンプレート・サンプル集も参考にしてください。